エナジーなんて得ずに翼が欲しかった日
水分摂取するのが苦手だ。
苦手と言うとまた違った物言いになる気がするから、正しくは水分補給するのが面倒なタイプの人間だ。
季節関係なく基本的にそこまで飲みたいと思わない。だから意識的に飲まないといけない、と心に言い聞かしている。
それくらい飲まないこともあり、健康診断の尿検査で見事2年連続で注意された時もあるくらいだ。
そこから数十ミリリットルは飲むが、1時間辺りの摂取量が風呂上がりの皮膚につける化粧水の方が多い時間だって多い気がする。
化粧水はサボると顔に分かりやすく出てくる。そういう目に見える効果がないことはしたくないのかもしれない。
体調が悪くなるわけではないが、多分数年後に影響が出てきそうだがその時はその時である。
今年に入ってから相も変わらず忙しい日々が続いている。
仕事してやりたいこともやると寝不足になる日々。
どうしても乗り越えたい仕事時はエナジードリンク(もしくは栄養ドリンク)を月に2回くらい摂取するタイミングがある。
職場近くの自販機、もしくはコンビニでの購入する。
冷たいまま飲むと高確率でお腹を壊す。そのため、ある程度の常温になるまでは飲めない。
水分を摂らない、冷たいままだとすぐ腹痛になる。
なんと面倒な体なのだろうか、しっかり対策すれば健康的には過ごせるのだから徹底しなければならない。
その日は寝不足があまりにも度合が酷かった。頭の中がボヤボヤしていて何も考えずに一口だけ飲む。
美味しいとは形容できない怪しい薬品みたいな味が口の中に充満する。しかし、これで眠気がマシになるならいい。
頭の回転数がなかなか上がらないまま、職場共用の冷蔵庫へ。
扉を開けた右側に飲料が置いてあるポケット部分にエナジードリンク、奥のトレイには弁当を適当に入れた。
そのままエナジードリンクの冷たさで、午前中はお腹を壊した。詰めが甘かったと思いながら昼休憩に突入。
昼食を摂っている最中に冷蔵庫をとてつもない勢いで閉めた音がした。音に驚き、白い箱の方を振り向く。
明らかにイライラしながら緑茶のペットボトルがもうスリムになってるのにさらにシュッとしたシルエットになりそうなサインを出しているのもお構いなしに潰しながら飲む先輩の姿がいた。
よほど午前中によくないことが起きたのだろう。午後からは気を付けて話すしかないと思いながら昼寝の体勢に入る。
ここでカフェインの効果が生きてしまったのか、全く眠れない。とりあえず視界を真っ黒にするためにテーブルの上で腕を組んで伏せる。
一度視覚を落ち着かせたら、別の感覚が研ぎ澄まされたのだろう。ふと冷蔵庫方面から何か匂いがする。
もうこのまま寝るのはやめようと思って、匂いの原因追及とエナジードリンクを常温にするのを忘れていたのを思い出して冷蔵庫を開ける。
先輩が勢いよく閉めたせいで缶が綺麗に転倒している。上下のポケットの底面が怪しい黄色の色の水面が出来ている。終わった。
『先輩そういうの配慮しないからイライラする結果になるのだ。もっと他の人のこと考えてくれ』なんて思考が0.5秒だけ思い浮かんだ。
そもそもそれ以前に私が封を開けたまま、可動域で見事に水平に移動されることが過程されるポケットに置いているのが悪い。
今近くにいる人達にアンケートを取ったとしても絶対に勝ち目がないくらいには明らか。
『音出したら迷惑とか思って、もうちょっと静かに開けることができないのか、そうすれば誰もイヤな思いをしなかったのでは』
自分が悪いからとりあえず急いで雑巾で吸い取る。ベッタリ手に糖分が吸い付くのが嫌悪感を助長させる。
こんなもの身体に入れ続けたらいつか身体から分泌される汗もべったりなっていくのだろうか、なんて馬鹿なことを考えながらポケットの内部を綺麗に拭いていく。
先輩へのよくわからない憤り、自分のやるせない感情を持ちながら死んだ顔で床に滴る液体を拭く。
開け過ぎた冷蔵庫が甲高い警告音を出している、今の自分にはそれは黒板を引っ掻いた時に出る音並みに厭な気持ちになる。どうか勘弁してほしい。
掃除を終えて、缶の底に残っている数滴を飲み干してゴミ箱に投げ捨てた。
朝払った200円ちょっとは糖分で手をベタベタにして、ショットグラスのシングルサイズにも満たないエナジードリンクの飲料代。
ふとクラブで買うエナジードリンクを思い出した。
今よりもうちょっとお得に飲める量を提供してくれるし、注文してからバーカウンターで素早く缶を開けて提供してくれる姿を加味しても600円は十分に安いなと思ってしまった日だった。