私は知れないカップルの世界。

駅から少し離れた映画館へ向かうために駅周辺の繁華街を抜けるために足を動かしていた。

やや店が減ってきて住宅街へと差し掛かる中、一軒の怪しそうな中華料理店が見えた。

入口は引き戸式。ガラスが擦りガラスではなく綺麗な透明のガラス。

そういう店はお客さん入っているのか気になり、ちらっと横見して通り過ぎた。

店内では二人で食事をしているカップルの姿が見えた。

けど、私にはイマイチ理解できない光景があった。

 

四人掛けの席で隣同士に座ってご飯を食べていた。

よくわからない。

共通の友人がいて三人でご飯食べるときにはわかる。いろいろ配慮して恋人同士で座るわけだ。

二人だ。目の前に誰もいない。

あるとすれば、反対側には二人の荷物が辛うじて見えるくらい。

少しでも長く近くにいたいとも考えた。幸せそう。

でも別に店決める時も「どっちが先入る?」みたいな入る手前に戸惑う時もどうせ手繋いでたかもしれない。

別に机挟んでも数十センチの差じゃないか、豪邸にありそうな超長いテーブルの端と端で大声で話さないと届かないわけではない。

隣か対面か、そのわずかな差だ。

もし、関係性が崩れるのならそれはそこまでだったんだ、諦めよう。

とても取り皿と餃子のタレが取りづらそうに思える距離感。

狭い席で隣同士だと肘とか当たらないのだろうか。

それも二人の幸せな空間だからいいのかもしれない。ただ自分にはわからないだけで。

 

そんなことを考えながら歩いていたらいつの間にか目的の映画館へとたどり着いた。

チケットを発券。シアターへと向かい、指定席に座る。中央が取れてベストなポジションで観れそうだ。

もう公開されてからそれなりに日が経っている映画なのでお客さんがかなり少ない。

のびのびとして観ることができそうだと思いながらスマホの電源を落とす。

 

辺りが暗くなった時に私の隣の席に座った女性がいた。大体1つ席を空けてチケット取ったりするかと思いきや、すぐ隣である。

一瞬、中華店のカップルの狭い中での幸福さと気だるい顔がふと思い出した。

あの距離感の幸せを共感できるかもしれないと思った時、

ポップコーンをムシャムシャと食べる音とバターの香りが隣から合わさって私の耳と鼻に届く。

「いや、やっぱりよくわかんないや」って首を傾げながら、もう何度見たかわからない映画泥棒の踊りをぼーっと見ていた。